日豪、レアアース供給網強化へ歴史的連携:あなたの未来を左右する「産業のビタミン」確保最前線

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導入:日豪連携が拓く「産業のビタミン」確保の新時代

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2026年5月4日、日本の高市早苗首相とオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、キャンベラでの首脳会談において、レアアースをはじめとする重要鉱物の安定供給確保に向けた連携を、両国の経済安全保障の中核的柱に格上げすることで合意し、共同宣言を発表しました。

この歴史的な合意は、現代社会の基盤を支える「産業のビタミン」とも称されるレアアースの供給網において、長らく続いてきた特定国への過度な依存という脆弱な構造からの脱却を目指す、極めて重要な転換点となります。

EV(電気自動車)や風力発電、スマートフォン、そして最先端の防衛技術に至るまで、私たちの日常生活や国の競争力に不可欠なこれらの鉱物が、今後どのように安定的に供給されるか。

その未来を左右する今回の連携は、読者の皆様の生活や仕事にも直接的な影響を及ぼすことでしょう。

本記事では、この日豪連携の背景、具体的な内容、そしてそれが日本と世界に与える影響、さらには今後の展望について、2026年5月時点の最新情報を踏まえながら詳細に解説します。

背景・経緯:なぜ今、中国依存脱却が急務なのか

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レアアースは、希土類元素の総称であり、その特殊な磁性や発光特性から、ハイテク製品には不可欠な戦略資源です。

しかし、その供給網は長年にわたり中国一国に極度に集中してきました。

国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、2023年時点で世界の磁性レアアースの61%を中国が採掘し、さらに精錬・分離工程においては世界の約92%を中国が担うという、ほぼ独占的な地位を築いています。

このような状況は、過去に幾度となくその脆弱性を露呈してきました。

特に記憶に新しいのは、2010年の尖閣諸島沖漁船衝突事件を背景とした中国による対日レアアース輸出規制です。

これにより、当時の日本の産業界は深刻な混乱に陥り、日本はレアアース輸入の約9割を中国に依存していたことが痛感されました
さらに、2025年4月には、中国がEVモーターや風力タービン、戦闘機などに不可欠な7種類のレアアースと磁石の輸出制限を拡大し、米国との貿易摩擦の「切り札」として利用する姿勢を鮮明にしました。

これにより、自動車メーカーは3~6カ月分の備蓄しかなく、供給が途絶えれば深刻な問題が生じると警鐘が鳴らされています。

2026年1月にも、中国は日本向けにデュアルユース品目(軍民両用品)の輸出管理を強化し、レアアースを事実上の制限対象に含めました。

こうした中国の「経済的威圧」とも言える行動は、レアアースが単なる資源ではなく、地政学的な「武器」として利用され得ることを明確に示しています。

脱炭素社会への移行とデジタル化の加速に伴い、リチウム、コバルト、そしてレアアースといった重要鉱物の需要は爆発的に増加しており、この特定国への依存という構造的リスクを解消することは、日本の経済安全保障にとって喫緊の課題となっているのです。

詳細内容:日豪6大プロジェクトと具体的な進捗

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Photo by Kacper G on Unsplash

今回の首脳会談で日豪両国が合意した協力計画には、オーストラリア国内における重要鉱物開発プロジェクト6件が優先的に推進されることが盛り込まれています。

これらのプロジェクトは、レアアース、ニッケル、ガリウム、そして砂鉱からのレアアース抽出といった多岐にわたる分野を対象としています。
中でも旗艦事業と位置付けられているのが、レアアース生産プロジェクトです。

これは、日本の大手商社である双日と政府系の独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」が共同で設立した日豪レアアース株式会社(JARE)が主導しています。

JAREは2023年3月、オーストラリアのレアアース最大手であるライナス・レアアース社(Lynas Rare Earths Limited)に対し、総額2億豪ドル相当の追加出資を実施しました。

この出資により、ライナス社が西オーストラリア州のマウント・ウェルド鉱山で採掘する重希土類であるジスプロシウムテルビウム最大65%を日本向けに供給する契約が締結されました。

これは、中国以外のサプライソースから重希土類を確保する、日本企業初の試みとなります。
実際に、双日は2025年10月下旬から、ライナス社がマウント・ウェルド鉱山で採掘し、マレーシアで分離・精製した重希土類の日本国内への輸入を開始しています。

これは、将来的に日本の重希土類国内需要の3割程度を豪州産で賄うことを目指す、具体的な第一歩となります。
その他の重要プロジェクトとしては、住友金属鉱山三菱商事が共同で主導するニッケル鉱山プロジェクト、双日が支援するガリウム回収プロジェクト、そしてJX金属丸紅が共同主導する砂鉱からのレアアース抽出プロジェクトなどが挙げられます。

これらの多角的な取り組みは、特定の鉱種だけでなく、重要鉱物サプライチェーン全体の強靭化を目指す日本の強い意志の表れと言えるでしょう。

オーストラリア政府も、2025年に12億豪ドル(約8億6千万米ドル)を拠出して重要鉱物の戦略備蓄体制を構築し、長期的な鉱物開発プロジェクトを下支えする方針を示しており、両国の連携は揺るぎないものとなっています。

専門家・関係者の見解:経済安保と戦略的自律性

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Photo by Dominik Lückmann on Unsplash

今回の日本とオーストラリアの重要鉱物分野における連携強化は、各方面の専門家や関係者から高く評価されています。

経済産業省は、重要鉱物の安定供給を経済安全保障の中心課題と位置付けており、資源調達先の多角化、リサイクル、代替素材の研究開発支援、国際協力の強化などを進めています。

特に、中国による輸出規制が地政学的手段として利用される中、海上航路遮断のリスクが高まっている現状は、重大な安全保障上の懸念をもたらすとの認識が共有されています。
あるエネルギーアナリストは、2026年1月の中国によるレアアース輸出管理強化を例に挙げ、「依存構造がそのまま経済的レバーになる時代に入ったことを典型的な事例として示している」と指摘しています。

また、供給が3か月止まれば日本経済に6000億円規模の損失が出るとの試算もあり、レアアースは「量」ではなく「止まったときの影響」で価値が決まる典型的な戦略素材であると強調しています。

このような状況下で、日本政府がJOGMECを通じて民間では取り切れない初期リスクを吸収し、サプライチェーンを国家として設計する装置として機能させていることは、極めて戦略的であると評価されています。
オーストラリア側も、この連携の重要性を認識しています。

オーストラリアは、豊富な鉱物資源を有しながらも、長らく一次産品を輸出し、加工製品を輸入する「掘って、出荷(dig and ship)」という経済モデルからの脱却を目指しています。

オーストラリア貿易投資庁(Austrade)は、2026年2月6日に「Australian Critical Minerals Prospectus」の最新版を公開し、国内の重要鉱物関連プロジェクトや実施企業の情報を取りまとめ、中流工程のセクションを新たに追加するなど、加工・精錬能力の強化に意欲を示しています。

日本の高度な技術力と国際的な信頼は、オーストラリアの重要鉱物産業の発展にとって大きな安心材料となり、両国の互恵的な関係を一層深化させるものと期待されています。

日本・世界への影響:サプライチェーンの再構築と経済安全保障

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Photo by Adam Nir on Unsplash

今回の日本とオーストラリアの連携強化は、単に両国間にとどまらず、日本経済、ひいては世界経済全体に多大な影響を及ぼす可能性を秘めています。

日本は、レアアースをはじめとする重要鉱物の調達において、中国への過度な依存という長年の課題を抱えてきました。

例えば、EVモーターに不可欠な重希土類であるジスプロシウムやテルビウムは、これまで事実上中国のみが商業生産を行っていましたが、今回のライナス社との連携により、中国以外のサプライソースが加わることは、日本の産業界にとって画期的な進展です。

これにより、自動車産業や電子機器産業など、レアアースを多用する分野は、より安定した材料供給の恩恵を受け、予期せぬ供給停止リスクから解放されることが期待されます。
また、この動きは、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の進化にも貢献し、日豪を軸とした多国間連携を通じて、国際秩序の維持を図る方針とも合致しています。

G7(主要7カ国)も「クリティカルミネラル行動計画」を策定し、加盟国間で重要鉱物のサプライチェーンを協調的に強化するとともに、代替材料の研究やリサイクルなどへの国際的な技術協力を進める方針を掲げています。

米国も2026年2月に「重要鉱物閣僚会議」を主催し、54カ国と欧州委員会の代表が参加して西側陣営の政策協調を図るなど、世界的に中国依存脱却への動きが加速しています。
消費者の皆様の生活への影響も無視できません。

スマートフォン、PC、デジタルカメラ、テレビといった身近な製品から、EV、風力発電機、さらには次世代半導体に至るまで、現代社会を支えるあらゆるハイテク製品にレアアースは使用されています。

サプライチェーンが安定することで、これらの製品の安定供給が確保され、価格の急騰や品不足といった混乱が回避される可能性が高まります。

これは、グローバル経済の不確実性が高まる中で、極めて重要な意味を持つと言えるでしょう。

今後の展望・予測:南鳥島開発と「ゼロ依存」への道

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Photo by Patti Black on Unsplash

日豪連携にとどまらず、日本は重要鉱物の安定供給確保に向けて、多角的な戦略を推進しています。

その中でも特に注目されるのが、日本独自の資源開発プロジェクトです。

日本の排他的経済水域(EEZ)である南鳥島近海の水深5700メートルの海底表層付近からは、重希土類を豊富に含む大量のレアアース泥が発見されており、その埋蔵量は日本の需要の数百~数千年分に相当するとも言われています。

これは、事実上中国が支配するレアアース市場の「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めています。
政府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、2026年1月に南鳥島沖でのレアアース泥の試掘に着手し、2027年1月からは1日当たり約350トンの大規模採鉱試験への移行を目指しています。

これは水深6000メートルからのレアアース泥の連続揚泥という世界初の試みであり、技術的なハードルは高いものの、成功すれば日本の「資源のない国」というイメージを覆し、「供給網を設計できる国」へと変貌させる可能性を秘めています。
さらに、日本は都市鉱山の活用にも力を入れています。

廃棄された家電製品からレアアースを含むネオジム磁石を回収・抽出する取り組みや、磁石を溶解せずに直接再加工する技術開発も積極的に進められています。

東南アジアなどの第三国の都市鉱山を活用し、日米豪印などが協力して技術を提供することで、調達の安定化を図る構想も存在します。
これらの取り組みは、日本が2028年までに一部のレアアースについて中国への「ゼロ依存」を目指すという、野心的な目標を達成するための不可欠なステップです。

もちろん、深海採掘技術の確立、環境影響評価、精錬・分離プロセスの課題など、乗り越えるべきハードルは依然として存在します。

しかし、政府と民間が一体となって取り組むことで、これらの課題を克服し、より強靭で持続可能な重要鉱物サプライチェーンを構築できると期待されています。投資家や企業は、これらの技術開発の動向を注視する必要があるでしょう

まとめ

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Photo by Tanya Prodaan on Unsplash

2026年5月、日本とオーストラリアは、レアアースをはじめとする重要鉱物の安定供給確保に向けた画期的な連携を発表しました。

これは、長年の課題であった中国への過度な依存から脱却し、経済安全保障を強化するための極めて重要な一歩です。
双日とJOGMECによる豪州ライナス・レアアース社への出資や、重希土類の日本向け供給確保といった具体的なプロジェクトが進行しており、2025年10月には豪州産重希土類の輸入も開始されました。

これは、EVや再生可能エネルギー、スマートフォンなど、私たちの生活に不可欠な製品の安定供給に直結するものです。
さらに、日本は南鳥島沖のレアアース泥開発都市鉱山の活用など、国内および多角的な調達戦略を推進し、2028年までに一部のレアアースで中国への「ゼロ依存」を目指すという挑戦的な目標を掲げています。
今回の連携は、単なる資源調達の問題に留まらず、地政学的なリスクが高まる中で、価値観を共有する国々が連携し、国際秩序の維持経済的自律性を確保するための強力なメッセージとなります。

読者の皆様の生活や仕事においても、この重要鉱物供給網の再構築は、製品価格の安定、新技術開発の加速、そして日本の産業競争力強化という形で、確実に影響を及ぼしていくことでしょう。

今後の進展に、引き続き注目していく必要があります。